2024-03-29T16:02:06Z
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2024-03-22T05:05:15Z
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Faster than Light II
西村, 泰一
ニシムラ, ヒロカズ
NISHIMURA, Hirokazu
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現在の宇宙に関する標準理論によると、我々の宇宙はBig Bangで始まったことになる。
約137億年前の話である。このBig Bangの話を最初に提唱したのはベルギー出身の
Catholic司祭でもあった宇宙物理学者のGeorges-Henri Lemaïtreである。1927年の話
である。この頃は、宇宙は定常、つまり昔も今も同じで変化していないという考え方が
支配的で、重力場の方程式を導いたEinsteinなんかも、これでは宇宙は膨張しているこ
とになると思って、大慌てで後に"人生最大の失敗“と後悔することになる宇宙定数を
加えている。因みに今では人口に膾炙しているBig Bangという用語もLemaïtre自身に
よるものではなく、定常宇宙論の大御所ともいうべきSir Fred Hoyleによるもので、彼
が、1949年3月28日にBBCのラジオ番組で、どちらかというと侮蔑的に呼んだその用語を
(大きなバーン)、Big Bang理論の擁護者であるGeorge Gamovが面白がって広めたも
のである。Lemaïtre自身はCosmic Egg(宇宙の卵)というきわめて控えめな表現を用い
ている。なお余談であるが、ローマ教皇Pius XIIが1951年にCatholic ChurchはBig
Bang理論を認めるという声明を唐突に発表する。Darwinが19世紀半ばに発表した進化論
を、Catholic Churchが認めるのに、20世紀末までかかったのとは、鋭い対照をなす。
これはBig Bangが宇宙の創造という聖書の記述と相性が良いためである。もっとも
Lemaïtre自身は、Catholicの司祭であるにもかかわらず、こういう話に教皇が口を出
すことを控えてほしいと、直々に進言している。なんとも控えめなLemaïtreらしい話
である。
☆☆☆
宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background radiation略してCMB)は
GamovやRalph Asher Alpherらによって1940年代に既に予言されていたが、そんなこと
は露ほども知らない畑違いのアメリカ合衆国のBell研究所の二人の研究者、Arno Allan
PenziasとRobert Woodrow Wilsonによって、1964年、超感度アンテナの雑音を減らす研
究中に偶然発見された。これはBig Bangから約40万年後に、電子と陽子が結合して水素
原子を生成して光が解放された時期、いわゆるTransparent to Radiation(宇宙の晴れ
上がり)のSnapshotであると考えられている。宇宙の晴れ上がり以前は、高温の自由陽
子と自由電子のPlasmaによって光は散乱され、不透明な宇宙の霧をなしていた。この
CMBは、光の化石とでも呼ぶべき代物で、宇宙の膨張によって波長が著しく引き伸ばさ
れたために、もはや可視光として見ることはできないが、マイクロ波放射として当時の
面影を今に伝えている。これを具に見ることで当時の宇宙の温度がわかるが、この若い
宇宙の温度は、天空全体にわたって驚くほど均一で、約3000K だったと推定される。ま
たこれらと他の宇宙論的Dataを総合することで、奇抜なことを期待する向きにはあまり
面白くない話かもしれないが、宇宙は平坦、つまりその曲率は0であることがわかって
いる。
☆☆☆
こうして地平線問題とか平坦性問題が頭をもたげてくる。地平線問題というのは、すべ
ての情報は光より速くは伝わらないのに、どういうMechanismで、かくも広大な宇宙の
温度が均一になったのかという問題である。平坦性問題というのは、曲率が正か負か0
かという話は、全Energy密度が臨界密度を上回るか、下回るか、あるいは臨界密度にち
ょうど一致するかに依るが、どうして全Energy密度が臨界密度にちょうど等しくなるよ
うに見事に調節されたのかという問題である。標準的な宇宙論では、これらの問題は
Inflation理論を用いて解決される。Inflation理論はアメリカのAlan Guthと日本の佐
藤勝彦によって1980年頃にほぼ同時に見出された理論であるが、Inflation理論という
かなり奇抜なNamingはGuthによるものである。Inflationというのは、宇宙の誕生間も
ない頃に宇宙が指数関数的な急激な膨張をしたという話で、確かにこれで地平線問題と
か平坦性問題は片付くのだが、問題はこのInflationを引き起こしたMechanismである。
単一のInflation理論があるわけではなく、次から次へと色々なInflation理論が作られ
、それなりに精緻になってきていることは間違いないが、これらすべてについて基本的
な問題をかかえている。まずInflation理論というのは、物質の根源を探求する素粒子
論の理論でもなければ、それから必然的に導かれる理論でもない。唯唯、Inflationが
ないと、とにかく困るので、それを正当化するために作られた理論である。Inflation
を引き起こすのは、Inflatonと呼ばれる仮想上の粒子であるが、これはこれまでに観測
されたことはない。いずれにしても、この粒子の質量はきわめて小さいので、観測の仕
様がない。次に、InflationのためにEinsteinが人生最大の失敗といった宇宙定数によ
る斥力が必要になるのだが、現在の宇宙定数は、平坦なEuclideanな宇宙を生成させる
のにちょうどいい値をとっているが、初期の宇宙ではこの定数がものすごく大きくない
と、Inflationなんかは生じない。この宇宙定数の変化がどうして起きたのかも謎であ
る。さらに、Inflationに関するPotential Energyが、かなり長時間一定に維持されな
いと、地平線問題とか平坦性問題を解決してくれるぐらいのInflationが生じないこと
もわかっているが、このためには物理を不自然と言えるまでに微調節する必要がある。
これもかなり苦しい。
☆☆☆
最近、Moffatという学者の”重力の再発見”(早川書房、2009年刊)という本をReview
する機会に恵まれた。著者は、1992年に光速が相転移によって変化すると考えることに
よって、Inflationを仮定しなくても、地平線問題とか平坦性問題を解決できるという
考えに到達している。光速は、現在では1秒当たり約30万kmであるが、初期宇宙のよ
うなきわめて高温の世界では、これの10の29乗倍くらい大きかったというのだ。我々の
日常の世界でも、光が水面に当たると、減速して方向が変わるが、これに近いことを温
度による相転移に担わせてしまおうという考えだ。つまり光の速度は温度の関数、しか
も不連続な関数となる。こうしてやると、地平線が完全に取り払われて、宇宙全体を見
渡せるようになり、地平線問題は消滅する。さらに光速が超光速から現在の光速に急減
少したことで平坦性問題も解決できる。要するに、光速の相転移に、Inflationに相当
するScenarioを担わせてしまおうという考え方だ。同じような考え方にMagueijoも到達
し、こちらも一般向きに“光速より速い光”(NHK出版、2003刊)を出版している。こ
こでは、この”光より速く”を美術として表現してみた。IではMoffat、IIでは
Einsteinに御登場願っている。
2011
jpn
other
http://hdl.handle.net/2241/114728
https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/records/25821
https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/record/25821/files/アインシュタイン.pdf
application/pdf
269.1 kB
2013-12-25